高校を卒業すると、進路は大きく変わる。大学進学は当たり前とは言え、私たちが卒業する時には半分くらいに分かれた。私は就職組で車で1時間ほどの町中に通うことになった。他県に行く人もいて、あれだけ仲の良かった友人たちと連絡を取り合うこともなくなっていった。それぞれにとって新しい出発だったし、仕事や勉強に忙しくなる時期なのだから仕方のないことではあるのだが。

そんなこんなで私も仕事を覚えるのに必死だったある日、見知らぬ番号からの着信があった。伝言には懐かしい名前が残されていた。昼休みに連絡を入れ、ひとしきりおしゃべりに興じてしまう。彼女とは同じクラスでいつもつるんでいたわけではなかったが、よく話をする友人の1人だった。そんな友人の1人でもあったSが結婚すると言う。その式に出席出来るかという確認と、同級生たちでやる余興の打ち合わせをしたいとのことだった。

Sのことは私もよく覚えていた。控えめな印象だが暗いわけではなく、いつも微笑んでいる顔が思い浮かんでくる。あの彼女が結婚するなんて。「クラスの第1号じゃないの?」何でも、職場の先輩社員に見初められてのゴールインだそうだ。日程を決めて、私たちは再会を約束した。「それはそうと、私結婚式に着て行けそうなドレス持ってないよ」電話の向こうで友人が笑った。「私もだよ。レンタルで借りようよ」その手があったか。

それからしばらく、私は高校時代のことを思い返していた。名前はともかく、懐かしい顔が浮かんでは消えていく。そのうちの幾人かとは結婚式で会うことが出来るだろう。高校を卒業してまだ数年しかたっていないのに、あの時代が遠くに感じられるのは何故だろう。でも私たちは消えてなくなるわけじゃない。こうして何かの拍子に再び関係が始まることもあるだろう。そこから、また始めればいいのだ。